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ルイヴィトンバッグネヴァーフル編集

 それまで黙っていた拓一が不意に口をひらいた。 「福ちゃん、福ちゃんなあ、今より幸せになれるんなら、お嫁に行ったほうがいいんでないか。俺はそう思う」  驚いて耕作は拓一を見た。 「兄ちゃん!」 「福ちゃん、幸せになれ。金一君って男、気持ちはやさしいんじゃないか。……だから、思い切って行けよ。な、福ちゃん」  言ったかと思うと、拓一はたまりかねたように、厩のほうに立って行った。 八  昨日から学校が冬休みに入った。生徒と顔を合わせることもない休みは、耕作にはつまらない。これから三十日もの間、冬休みがつづくのかと思うと、張り合いぬけがするようであった。いつもならもう起きる時間なのだが、耕作は布団の中で、ぼんやりと目をあけていた。拓一も珍しく眠っている。規則正しい健康な寝息を立てている。耕作は足の先で、ぬるくなった湯タンポを引き寄せながら、 (兄《あん》ちゃんもかわいそうだな)  と思う。特に寝ている時の拓一が、たまらなくかわいそうだ。福子が来た翌日から、拓一は無口になったような気がする。鋸《のこぎり》の目立てをしながら、いつしかその手が休んでいたり、新聞を読んでいながら、その目が同じ所にとどまっている時がある。 (福子のことを考えているんだな)  その度に耕作はそう思う。だからそんな時は、耕作は見て見ぬふりをする。  あの日福子は、拓一に嫁に行けと言われて、 「拓ちゃんがそう言うんなら、そうするわ」  と言っていた。そして福子もぼんやりとしていた。その福子を思うと、耕作の胸の中はもやもやとなってくる。 (福ちゃんも馬鹿だ)
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